本研究では、化学・製薬・食品工業での代表的な反応・分離操作の一つである晶析操作について、結晶製品の高度な品質予測・制御方法の構築、ならびに生産性の向上を目指して数値流動解析およびモデル実験を行った。得られた知見は以下の通りである。 1. 撹拌翼・邪魔板・槽壁と結晶粒子が衝突する際に結晶が摩耗する現象は、発生する微粒子が二次核として作用するため、その定量化と予測は晶析装置の安定操作において非常に重要である。そこで、前年度までに得られた固液撹拌槽内での粒子の衝突エネルギー、衝突頻度に関連する統計データ(第8回化学工学世界会議(WCCE8)において発表)と結晶摩耗モデルを組み合わせることにより、数時間にわたる結晶摩耗量を定量的に推算する手法を構築した。あわせてキシレン中での塩化ナトリウム結晶の摩耗実験を行い、モデル定数の決定に利用した。 2. 「高懸濁濃度・高効率晶析操作条件の検討」に関して、前年度対象としたドラフトチューブ付き撹拌型食塩蒸発晶析装置を、半回分式から連続式に改良したうえで、高懸濁濃度条件(真の体積濃度20~35vol%)での最適な晶析操作条件(蒸発速度と懸濁濃度、撹拌翼回転数の組み合わせ)について検討した。本晶析装置はドラフトチューブの形状を適切に設定することで、高懸濁濃度のスラリーを低い撹拌所要動力にて完全浮遊させることができ、過剰な核発生(結晶摩耗)を抑制できることが期待される。その結果、懸濁濃度が30vol%と高い条件においても撹拌翼回転数を完全浮遊回転数より2割ほど大きくすることで、少ない核発生量と結晶凝集の抑制効果の相乗により安定した連続操作が達成できることが明らかになった。
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