本年度は研究計画に準じ、炭素原子6個を骨格にもつ直鎖炭化水素と芳香族炭化水素の反応による微粒子前駆体の生成機構を新たに検討した。従来検討されてきた純粋な芳香族炭化水素の微粒子前駆体生成メカニズムに加え、直鎖炭化水素類の添加がその生成機構にどのような影響をもたらすか、本研究において開発した可変真空紫外レーザーイオン化質量分析システムを用いて実験的な研究を行った。その結果、芳香族炭化水素のみ、あるいは直鎖炭化水素のみでは生成しない、反応中間体の存在が示唆された。また、レーザー波長を変更してイオン化エネルギーを変化させることで、一部の生成物や反応中間体の同定が可能となった。今後はこの方法を利用して、これまでの研究では推定の域をでていない、大質量の反応中間体の構造を区別し、より精確な反応機構の構築が行えると期待される。また本年度は、不飽和炭化水素ラジカルおよび含酸素炭化水素ラジカルの共鳴安定化構造が与える影響を反応素過程として精査した。その結果、共鳴安定化によりラジカルとしての反応性は通常の炭化水素ラジカルと比較して酸化が抑制される傾向が明確になった。結果として、共鳴安定化ラジカルの生成は、ラジカル相互の再結合による環状化合物の形成を促進する、という従来の理解と整合するものと考えられる。よって、分子骨格中に酸素原子を含むラジカルの存在は環化反応を結果として抑制し、微粒子核形成を制限する作用が期待できる。
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