本年度は研究計画に準じ、炭素原子6個を骨格にもつ直鎖炭化水素と芳香族炭化水素の反応による微粒子前駆体の生成機構を詳細に検討した。その結果、芳香族炭化水素(トルエン)のみ、あるいは直鎖炭化水素(ヘキサン)のみでは生成しない、反応中間体の存在が明らかにされた。また、それぞれ単体のみの系で生成する微粒子前駆体の量は、混合することで大きく変化するものとそうでないものとに分けることができ、混合燃料の場合、単に単体での結果を足し合わせたのでは説明できない効果がもたらされることが明らかになった。これは、ヘキサン由来の炭素原子2個または3個の炭化水素による反応スキームへの新たな影響と考えられた。多メチル基置換体の反応性についても検討を行うため、トルエンの代わりにオルトキシレンを使用したところ、芳香環に付いた隣り合うメチル基同士による新たな環の形成が示唆された。更に、酸素の存在による効果を検証した。酸素存在下においては、芳香族炭化水素の酸化が進み、結果的に、多環芳香族の生成が抑制される様子が観察された。これらの結果を基に多環芳香族炭化水素の形成メカニズムを精査したところ、従来提案されているメカニズムの一部に対して追加・修正を行う必要があることがわかった。また、芳香族炭化水素の反応メカニズムで重要な酸化過程に関する理論計算を行い、芳香環上のメチル置換基の部位により、反応性すなわち着火性に大きな影響をもたらす要因を検討した。その結果、オルトキシレンでは特有の反応経路が存在することが示唆され、他の置換体に比べ酸化が進みやすいことが着火性を高めていると示唆された。
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