研究概要 |
H20年度までに行っていた動力学シミュレーションでは,歩行中に取得した運動計測データに基づいて歩行運動を再現するための全ての関節の運動をあらかじめ既定し,関節におけるフィードバック制御に基づいて歩行運動を構成していた.しかしながらこの方法では,あらかじめ関節の運動が規定されているため,獲得される適応性は非常に制限されてしまう.更に,関節におけるフィードバック制御のために,脳神経系の情報処理における神経伝達の遅れによって運動が容易に不安定化してしまうという問題があった.神経筋骨格モデルに基づいて適応的な運動生成メカニズムを明らかにする上で,これらの問題点を克服することは重要な課題であった.そこでH21年度では,まずはヒトの2足歩行運動を対象に,神経生理学的な知見を参考にして,脊髄のリズムパターン生成器(Central Pattern Generator (CPG))の研究から示唆されている2階層の構造をモデル化して,フィードフォワード制御に基づく運動指令のモデルを作成し,神経伝達遅れも考慮した体性感覚情報に基づく姿勢制御と,接地感覚情報に基づく位相リセットを統合することで,あらかじめ規定した関節運動に依存しない歩行運動を実現することかできた.その結果を,歩行中の関節運動や,床反力,筋のEMGパターンなどと比較した結果,運動学的にも,動力学的にも妥当な歩行運動が実現できていることが確認できた.更に,この数理モデルに基づいて,外乱や環境変化に対する適応的な運動生成メカニズムを調べ,特に接地感覚に基づく位相リセットが大きく寄与することが示唆された.この研究成果はBiological Cyberneticsに受理された.
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