研究概要 |
本年度の研究では, ステレオヘッドフォンを通じて提示される音響信号を仮想的に頭外に定位させる仮想音像定位の精度向上を目指して検討を進めた. 頭外音像定位に関する近年の先行研究において, 音響信号の伝達特性の個人差は, 外耳道入口から鼓膜までの音響信号の伝達特性である外耳道伝達関数(ECTF)に特に顕著に現れ, 空間音響伝達関数(SSTF)にはあまり個人差がないことが示唆されている. そこで本年度は, 音響伝達特性に含まれる個人差の調節対象として音源の角度に依存しないECTFに着目し, この調節を試みた. まず複数の被験者に対してECTFを同定する実験を行った. ステレオヘッドフォンに対する入力信号を入力, 鼓膜前に設置したマイクロフォンにより採取される信号を出力として周波数領域においてECTFを同定した. このECTFの逆フィルタを仮想音像定位精度評価実験プログラムに組み込み, SSTFは昨年度の実験で測定されたHRTFデータを用いて構成して仮想音像の頭外定位評価実験を行った. その結果, 複数方向の仮想音像に対する定位誤差絶対値の平均が小さくなった被験者と, 効果が見られなかった被験者に分かれた. そこで, 更なる定位精度の向上を目指し, ECTFの位相を定位誤差量に基づいて調節することでECTFの個人差に対応しようとするアルゴリズムを試行した. しかし, この調節スキームを組み込んだ場合でも, 定位誤差絶対値の平均が小さくなる事例と悪化する事例の両方が存在した. このような結果になった原因として, 今回構成した修正アルゴリズムが定位誤差を即座に位相修正に反映させるものであったために, ECTF自体が振動的になったことがあると考えている。
|