研究概要 |
人間がフィードバック制御系のコントローラとして機能する,いわゆる手動制御系において,人間が制御対象の状態を把握する手段として音情報を用いる「音フィードバック手動制御系」について,その制御性能向上を目指した研究を行っている。具体的な制御性能向上の手段は,制御量を移動する仮想音像の位置として制御者である人間に正確に制御量を伝えるでことであり,このため,ヘッドホン受聴にて頭外の指定方向に仮想音像を定位させる「頭外音像定位」における定位精度の向上を主眼に各種検討を行ってきた。主たる考え方は,頭外音像定位に関係する伝達関数を被験者の制御動作に応じて適応的に調節することである。 2009年度の研究では,頭外音像定位を構成する要素のうち個人差が顕著であり,かつ角度依存性がない「外耳道伝達関数(ECTF)」を調整の対象とし,まず被験者個人に該当する外耳道伝達関数を9次のMAフィルタとして同定し,このフィルタに直列にゲインおよび位相シフト量を接続し,追従偏差信号に応じてECTFのゲイン及び位相を全帯域において一応に上下させる簡易な適応調節機構を導入し,複数被験者による評価実験を行った。 その結果,以下の結果が得られた。 1. 両耳間強度差を強調する補正は,制御性能向上(追従誤差の低下)に効果があった。補正量は,信号が飽和しない範囲において補正の感度が高いほど効果が高かった。また,提示する音像として500Hzの純音を用いた場合と3000Hzの純音を用いた場合では,3000Hzの音を用いた場合のほうが制御性能の向上が大きかった。 2. 両耳間位相差については,補正の感度の強弱に対する制御性能指標の値の変化がまちまちで,補正量の大小と制御成績の間には相関は見られなかった。特に,位相差を大きくっけた音像を提示した場合,一音に聞こえず左右別々の音が鳴っているように聞こえることがあった。 3. 両耳間強度差の強調と両耳間位相差の強調を併用した場合も,補正の効果は見られなかった。
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