平成20年度は、陽極反応で形成されるポーラス構造の光学的特性・電気的特性を明らかにし、3次元量子ナノネットワークの素子応用に向けた検討を行った。主たる成果を以下に示す。 1. 近赤外〜紫外領域(光波長 : 200nm-1100nm)において、InPポーラス構造の光反射特性と光吸収特性を明らかにした。ポーラス形成初期に形成される表面の不均一層を除去した試料では、極めて低い光反射率と高い光吸収率を示し、この特性は、細孔の周期性および深さに依存している事を明らかにした。本結果から、電気化学的条件によるポーラス構造の形状制御により、太陽光発電素子や光受光素子応用への可能性を見いだした。 2. InPポーラス構造を基盤とした電流検出型センサを試作し、孔壁/電解液界面の電気的特性を明らかにした。プレーナ電極と比較し、ポーラス構造上に試作した化学センサは、極めて高い検出感度を示し、孔の直線性の改善および孔の深長の増大により性能が向上することを示した。これは、高密度に形成された多孔質構造において、非常に大きな孔壁表面が電流輸送に寄与していることを示唆する結果であり、本構造が高感度化学センサの基本構造として有望であることを示した。 3. pn接合基板にポーラス構造を形成し、孔壁内部にポテンシャル勾配を有する3次元量子ナノネットワーク構造の試作に成功した。作製した構造上面および基板裏面に電極を形成し、ポーラス構造の縦方向の電気的特性を評価し、電流輸送特性は整流性となることを明らかにした。これは、厚さ20〜30nmの孔壁が優れた電気伝導特性を有し、pn接合界面の整流性がポーラス構造においても維持されている事を示す結果である。 4. 以上の結果を総括すると、電気化学的手法により形成される3次元量子ナノネットワークは、画期的に大きな表面積と優れた伝導特性および光学的特性を示し、高感度化学センサや高効率太陽光発電素子の基本構造として有望であるとの結論に至った。
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