有機モット絶縁体(BEDT-TTF) (TCNQ)結晶を活性層とする電界効果トランジスタ(FET)を作製し、ゲート電界/化学ドープ/光励起によるキャリア濃度変調を引き金とした物性制御を目指す研究を行った。結晶成長方法の改善により、キャリア移動度が1桁近く向上する成長条件を見出した。FET伝達特性の温度依存性から、電子の電界効果移動度が250Kで極大、280Kで急激な増加を示し、320Kにて最大値をとることが分かった。正孔の電界効果移動度に関しては、同じく260Kで極大、280Kで急激な増加を示すが、310K以上で徐々に降下するなど、電子移動度とは異なる温度依存性が見られた。電子および正孔の移動度がこのような振る舞いを示した観測例は他になく、バルクの電気特性においてもこの振る舞いに対応した温度依存性は観測されない。これは、FETのチャネル領域のキャリア伝導がバルクのそれと異なることを示している。電子移動度と導電率が最大値をとる温度が一致することから、バルク結晶で知られていた金属-絶縁体転移は、電子移動度の温度依存性によって説明できることを始めて示した。一方、伝達特性において見られたヒステリシスについて解析を進めたところ、強誘電体的なΔP-V曲線が得られた。この物質のバルク結晶において強誘電的な誘電特性は報告されたことがない。280Kにおいて強誘電性の消滅に伴って移動度が急増することから、移動度と強誘電性の温度依存性には明確な相関が見られる。このことを考慮して、ゲート電界によって誘起された電荷移動量変化Δρが格子歪を伴うことによって強誘電性が発現すると解釈した。化学ドープ効果に関しては、F-TCNQのドープ量の増加に伴って、電子移動度と正孔移動度で異なる温度依存性を示すことを明らかにした。280Kにおける相転移が幅を持つようになり、これは多数の結晶の平均的な特性を測定していることによると考えられる。光励起効果に関しては、赤外域の光検出器の入手に時間を要したため、光伝導の予備的な実験のみを行った。今後、より広範囲の光伝導スペクトルの測定と解析を行っていく。
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