平成20年度には、平成19年度に開発を行った計測系を用いて、ボロン注入標準試料のTOF-ERDA(Time-of-Flight Elastic Recoil Detection Analysis)計測を行った。標準試料の作製条件は、注入エネルギー2keV、注入量1.5×10^<16>/cm^2となっており、TOF-ERDA計測スペクトルを容易に評価するために現在半導体プロセスで使われている注入条件よりは注入量が多くなっている。平成19年度に行った計測と同様に、Siプローブを用いた計測で、SiとBのスペクトルを分離して計測することに成功した。このスペクトルより、Bの深さ分布への変換を試みたが、Si、B双方のTOF-ERDAスペクトルが完全に分離しておらず、現状の計測結果のまま深さ分布へ変換することは難しかった。 比較のため、同試料を100 keV Arビームとトロイダル静電アナライザを用いた、MEIS(Medium Energy Ion Scattering)-ERDAでも計測を行った。MEIS-ERDA計測では、BのERDAエネルギースペクドルがSiのERDAエネルギースペクトルに完全に重なっており、TOF-ERDA計測結果と比較するデータを得ることができなかった。これは、トロイダル静電アナライザでは、エネルギー分離のみしかできず、SiとB両方が検出されるERDA計測のためには、質量分離を行う必要があるためである。 これらの計測結果を踏まえると、より詳細なERDA計測のためには、トロイダル静電アナライザによるエネルギー分離に加えて飛行時間を計測することでさらにエネルギー分離と質量分離を行う新しい計測系の構築が望ましいことがわかる。
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