研究概要 |
本研究では申請者が開発した電気泳動堆積法などの, スピンコート法などの従来法に比して低濃度の溶液からの製膜法を確立し, 光電変換デバイスへの応用を図ることを目的としている。昨年度は, 従来検討していなかった, 30%以上と比較的良溶媒の濃度が高い懸濁液組成を検討したところ, AFMでの観察において約10nmの平均粗さという, これまで電気泳動堆積法では得られなかった平坦性を有する膜を得ることができ, ITO/PEDOT : PSS/電気泳動導電性高分子膜/MgAgという構成の発光素子が均一な発光を示すことを見出した。 本年度の特筆すべき成果として, ある導電性高分子において, 例えば10g/lの濃厚な溶液からのスピンコート法では到達し得なかった200nm以上の膜厚を, 0.1g/lという2桁希薄な溶液から調製した懸濁液を用いた電気泳動堆積法により実現し, 発光素子の動作を確認するなど, 本手法の有用性について明らかとしたことが挙げられる。 またこの研究の過程で, ITO電極をホール輸送性高分子であるPEDOT : PSSで被覆した場合に, ITO電極上へ直接行なうよりも電気泳動堆積法による製膜が困難となることが判明した。具体的には, 未被覆のITO電極上には0.005g/lという極めて希薄な懸濁液から堆積時間に比例した膜厚の増加が見られるのに対して, PEDOT : PSS被覆電極においては, 0.05g/l未満の濃度では均一膜を得られず, それ以上の濃度の場合でも一定の休止時間の後, 非線形に膜厚が増加するという現象が見出された。この現象について高分子濃度や印加電圧を変化させることにより詳細に検討したほか, 基礎的な堆積メカニズムを調べるために電気泳動堆積時の電流を計測することを試みた。以上のように, 光電変換素子への応用に向けた低環境負荷かつ高効率な希薄溶液からの導電性高分子製膜法の開発を進めることができた。
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