単一の動的システムに、弱い揺動外力の同一の時系列を繰り返し与えると、出力の再現性が向上する場合があることが知られている。また、複数の結合していない同等な動的システム群に共通の弱い揺動外力を与えると、それらが同期する場合があることも知られている。この種の現象は、電気回路、レーザー発振、神経細胞、さらには生態学における個体数の変動等、非常に広範な対象に共通に見られるものであり、普遍的なメカニズムの存在が予想される。このメカニズムを理解するために、非線形な動的素子の典型例であるリミットサイクル振動子等に共通の外力を与えた系に対して、ノイズを受けた力学系を記述する確率微分方程式の手法と、非線形振動子の解析手法である位相縮約法を用いて再詳細な解析を行った。これにより、弱い揺動外力を受けたリミットサイクル振動子は、その詳細によらず一般に、常に再現性の向上、あるいは同期現象を示すことを明らかにした。その際再リミットサイクルの摂動に対する位相応答関数が本質的な役割を果たすことを示し、それが満たすべき条件を一般的な形で得た。今年度は特に、リミットサイクルがインパルスに駆動される状況に対して、インパルスが単純に周期的に与えられる場合とランダムなPoisson過程により与えられる場合を比較するため、それらを連続的につなぐガンマ分布に従うインパルスを考え、周期外力への引き込みからPoissonインパルスによるノイズ同期への転移を解析した。また、素子がリミットサイクルではなく周期性の強いカオス振動子の場合への理論の拡張を試みた。さらに、関連する問題として、白色ガウスノイズを受けるリミットサイクル振動子の厳密な位相縮約に関する数理的な話題や、ネットワークを介して相互作用する非線形振動子群のダイナミクス、特にその集団振動に外力の与える影響の定量化に関する理論的解析を発展させた。これらの結果は実世界の多彩な非線形系におけるコヒーレントな動力学を理解する上で重要だと考えられる。
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