本年度は、マルチドメイン波長ルーティング網を対象としてスケーラブル(ネットワークの大規模化に対する拡張性がある)かつ高いスループットを達成できるような光パス設定方式を検討した。マルチドメイン波長ルーティング網は管轄の異なる複数のドメインにより構成されており、その規模は大きい。そのため、ノード間で交換されるリンク利用情報が大きくなり、維持すべきリンク利用情報量の肥大化、リンク利用情報処理負荷の増大、および、制御チャネル帯域の増大といった問題が生じる。これらの問題を解決するには、ノード間で交換されるリンク利用情報量を抑制することが重要である。これを実現する方法の一つとして、階層化ルーティングがある。階層ルーティングは、ドメイン内ルーティングとドメイン間ルーティングの階層構造を導入することによりリンク利用情報の広告範囲を限定し、その広告量を低減する。この階層化ルーティングにおいては、ドメイン内物理網をどのような論理網へと抽象化するかが問題となる。この抽象度合が小さい場合、各境界ノードが外部ドメインの物理網に属する各リンクのより詳細な利用情報を得られるため、より高いスループットを実現できる。一方で、抽象度合が小さいためにドメイン外へのリンク利用情報広告量の低減量は小さい。抽象度合が大きい場合にはこの逆がいえる。本研究では、リンク利用情報の広告量を抑えつつ高いスループットを達成することを目的として、ドメイン内物理網をスター型論理網へと抽象化するドメイン内物理網抽象化方式を提案した。シミュレーションにより従来方式であるノード型抽象化方式およびフルメッシュ型抽象化方式と提案方式を比較評価した結果、提案方式はフルメッシュ型抽象化方式と比較してリンク利用情報広告量を大幅に低減できること、および、ノード型抽象化方式よりも高いスループットを達成できることを明らかにした。
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