研究概要 |
本研究の目的は,申請者等の開発したフィルタバンクにおける最適信号近似の成果を,偏微分方程式の離散的な近似解法に応用し,所与の離散点で所与の非斉次変数係数線型偏微分方程式と初期条件および境界条件を同時に満たす事が保証された数値解法を確立すると共に,本数値解法を並列に計算するプログラムの実現法を明らかにする事である。本年度は,これまでの研究成果に基づいて,任意個の独立変数をもつ非斉次変数係数線型偏微分方程式を対象とする数値解法を確立した。 まず,空間領域で有界な台をもつ任意次元の信号の集合を対象とし,信号と同次元のフィルタバンクを用いる最適信号近似の理論を構築した。次に,上記フィルタバンクを用いて,任意個の独立変数をもつ非斉次変数係数線型偏微分方程式をモデル化する方法を示した。このとき,上記フィルタバンクの合成フィルタに,所与の非斉次変数係数線型偏微分方程式の右辺にあたる既知の入力関数の標本値と,初期条件および境界条件を与える既知関数の標本値を入力する事により,未知の厳密解の近似が上記フィルタバンクの出力信号として得られる事,および,ここで得られた近似解が,所与の標本点の全てにおいて,所与の非斉次変数係数線型偏微分方程式と初期条件および境界条件を同時に満たす事を,上記理論のもつ選点直交性に基づいて理論的に証明した。これらの成果に基づいて,任意個の独立変数をもつ非斉次変数係数線型偏微分方程式の数値解法を構築した。さらに,本数値解法の計算が線形連立方程式の求解に帰着する事を理論的に証明して,並列線形演算ライブラリScaLAPACKの利用等により,本数値解法の並列計算プログラムを実現できる事を明らかにした。 加えて,非線型問題への応用を見込んだ基礎理論として,非線型特性をもつフィルタバンクを用いる最適信号近似の理論を構築した。さらに,薬物投与計画シミュレーションへの応用を考察した。
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