研究概要 |
本研究では,ネットワーク型発振器を用いて,時系列データの予測を行うことが目的である。昨年度までに,van der Pol発振器を3x3の格子状に結合したネットワーク型発振器で,過去のデータを入力することにより,未来のデータが出力される一種のフィルタを構築し,回路方程式を正規化してルンゲ・クッタ法を用いて数値解析を行い,時系列データの予測を行ってきた。このシステムはパラメータ数が多く,手動による調整部分も多かった。今年度は,自動化のためのパラメータ調整手法を開発し,1度目の予測以外はほぼ完全に自動で予測を行うプログラムの開発に成功した。また,実回路においてこのシステムが構築可能なことをより明らかにするため,昨年度から引き続き行っているspiceを用いての,ダブルスクロールアトラクタを持つカオス時系列データの予測を行い成功させた。この実験では,素子の大きさを実際に作成可能な大きに限定し,観測用の回路なども含めたため,各キャパシタの初期電圧などを設定する回路を作成する必要はあるが,予測を行う実回路システムをそのまま作成できることが明白になったと言える。さらに,波形合成時に発生していると考えられる現象を考慮するため,これらの格子状回路の規模を大きくし,位相差の伝搬現象についての解析も行い,同期への引き込み力の強さや,位相差が伝搬し続ける現象のメカニズムの解析なども行った。また,実回路を作成し,シミュレーション上で見られた現象と同様の現象が見られることを確認した。別の回路として,スパイラルインダクタを用いた発振器と共振器を組み合わせることによる予測システムについても上記の場合と同じ条件で,spice上で実現し,時系列データの合成に成功した。よって,この方式でも実回路として実現可能であることは明白である。また,この方式においては,複雑な挙動を示す時系列データの予測には,回路規模を大きくする必要があることも示した。
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