地球周辺を伝搬する電磁波動は背景プラズマとの相互作用により複雑な挙動を示すことが知られているが、こうした波動の観測データを利用することで逆に伝搬路に沿った電子密度を推定することができる。本研究では、電離圏だけでなく、さらに上部に広がる「プラズマ圏」に着目し、その電子密度の空間構造を把握することで、GPSに代表される衛星測距における高精度な伝搬遅延モデルを開発することを目的としている。 本年度は、あけぼの衛星の低周波波動の観測データに加え、世界各地の電子基準点におけるGPS受信データを統計的に解析して、地球周辺の電子密度分布の標準モデルといえるGCPM(Global Core Plasma Model)の改良を行った。これにより、モデルの精度が特に低かった低緯度において測距信号の遅延量の見積もり精度を大幅に改善した。また、従来のTEC(Total Electron Content)による遅延量の見積もり精度の検証を行うために、測距信号の伝搬を理論的に再現する数値シミュレータの開発を行った。ホイスラモードなどの低周波の波動の伝搬経路を求めるために利用されてきたレイトレイシング法を拡張し、マイクロ波帯の伝搬モードでも有効数字の桁落ちが生じないようにすることで、測距信号の伝搬を幾何光学近似に基づき理論的に再現できるようになった。また、媒質の変化が激しい領域における信号波動の挙動を解析するためにFullwave法を実装した。これにより波動の角度の広がりの変化を取り扱うことができるようになり、伝搬特性をより厳密に取り扱うことが可能となった。開発した伝搬シミュレータは、GPSなどの測距信号だけでなく、地球周辺の様々なモードの波動伝搬の解析にも適用できると考えられる。
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