研究概要 |
本研究は,洪水による自然撹乱を内包する河川という環境に成立する生態系を適切に理解するため,付着藻類による1次生産,水生昆虫などによる2次生産が極めて大きく,魚類等の再生産の場としても機能する礫床河川の河床環境に着目し,ダム建設等のインパクトが下流河道の河床の低攪乱化を介して生態系をどう変えるのかを明らかにすることを目的とする.河床の低攪乱化は河床が動きにくくなって移動頻度が減少した状態を指し,実現象としては,(1)河床材料のサイズ構成変化(粗粒化)を伴う場合と(2)水生生物が環境を改変して材料同士を接着させる「河床固化」に分けて考えるものとした.研究計画の全容としては,現地観測による河床低攪乱化の現況把握と物理・生物影響因子の抽出,そこでの素過程を模した室内実験を踏まえ,河床の低攪乱化における物理-生物相互作用系をモデリングする. 本年度は,昨年度に引き続き,三重県松阪市に位置し中央構造線に沿って広がる櫛田川流域を対象とし,地理情報システムによって流域特性を整理したうえで,流域の土砂動態とその生態的影響を分析した.具体的には,以下の2つのサブテーマに集約される. (1) 山地流域における土砂生産特性に表層地質構成が及ぼす影響 地形特性が類似して地質構成が異なる小流域からの土砂生産特性について,小ダム(貯留ダム)における堆砂量を調査分析したところ,変成岩で構成される流域と堆積岩で構成される流域では降雨に対する土砂流出が異なることが明らかになり,降雨特性を説明変数とする重回帰式が得られた. (2) 流域の表層地質が河床材料構成,底生動物組成に及ぼす影響 表層地質構成に着目した小河川の河床底質を調査したところ,優占する地質によって材料構成が異なり,それに応じて特徴的な底生動物組成が成立し,群集の多様度にも大きな影響を与えていることが示唆される結果が得られた.
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