河川洪水や津波など、その発生までに若干の時間的猶予が存在する災害時の住民避難であっても、住民のいわゆる「避難していない」状態については多く観測されることである。このような状態の住民は、積極的に「避難しない」という選択肢を選んでいるというよりはむしろ、避難開始の判断をひとまず保留している状態、すなわち今が避難するほどの災害時なのか否かを判断できるだけの情報が不足しており、大きな不安を感じつつ、その不安を払拭すべく情報検索に走っているが故に、結果として避難できていない状態にあると解釈すべきと考えられる。本研究では、住民のこのような心理過程を踏まえ、この「判断保留」の心理状態にある住民をそのまま「避難していない」状態にとどめておくのではなく、結果として「避難している」状態に誘導するための方策として、避難所の災害情報ステーション化戦略を提案するとともに、そのような整備によりどれほどの避難率向上の効果が期待されるのかについての検討を行った。 避難所の災害情報ステーション化戦略による住民避難誘導効果を検証するにあたっては、まず、前述のような「判断保留」の心理状態を記述することが必要となるため、これに関わる種々の要因を簡便な数理モデルによって記述した。それに基づく検討の結果、避難所の災害情報ステーション化戦略はある一定の住民避難率を向上させる効果をもつことが示された。ただし、前述のような「判断保留」の心理状態にある住民の全てを避難させるほどの絶対的な役割を担うものではなく、むしろ住民個々の抱く災害イメージのありようや状況認識、さらには対処有効性認識(いま解決すべき問題(コスト)をその行動をとれば大きく解消できるだろうという有効感)などの違いによって住民避難誘導効果は大きく異なることが示された。
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