研究概要 |
本年度は,前年度までに行った理論的・実証的検討を踏まえて,認識の不一致に起因する社会的コンフリクトを緩和するための方策やガバナンス構造について総合的に検討した. 前年度までに検討した主観的ゲーム理論を用いて,地域における信頼形成と社会的学習のメカニズムをモデル化,分析し,地域における信頼と学習行動を同時に促進するための方策について理論的に検討した.その結果,地域主体間の言語体系の相違に起因して,信頼形成と社会的学習との間に制度的外部性が存在し,そのため,社会的学習を促進するための方策が地域における信頼形成を阻害する可能性が存在することを理論的に指摘した.さらに,そうした外部性を抑制し,信頼形成と社会的学習を促進するための方策として,信頼と学習に関わる立証過程の分離,地域における寛容性,成功経験の共有化,の重要性を指摘した. また,政治経済学における「離脱」と「発言」概念に着目し,多様な認識体系が存在する中で,いかにして認識的な正当性を確保すべきかについて理論的な検討を行った,具体的には,地域公共財供給における離脱と発言の構造をモデル化し,地域主体による離脱の可能性が,その発言行動に及ぼす影響を分析した.その結果,地域主体間で離脱可能性の非対称性が存在する場合,彼らの発言行動にも歪みが生じ,望ましい社会的意思決定がなされなくなる可能性が示された.そして,そうした事態を緩和するためには,地域主体の離脱の可能性を考慮した上で,発言の正当性を考量することが重要であることを指摘した.
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