道路交通システムにおける、ドライバーへの個別交通情報提供が実用化されている。個別交通情報提供はドライバーを適切な経路に誘導することが目的の一つであり、各ドライバーの旅行時間の短縮や、ドライバーの効用の最大化を目指している。しかし、実旅行時間情報による経路推奨は、結果として推奨された経路の混雑を招き、道路交通システム全体としての効率を下げてしまい、その結果個人の効用も低下する場合もある。本研究では過年度に行った被験者実験データを用い、過年度に引き続き被験者の行動を分析した。具体的な成果は次の通りである。 全体情報のみが提供された場合、ドライバーは全体情報値が最小となる経路ではなく、全体情報値が二番目に小さい経路を利用しやすい傾向があることが示された。これは、全体に提供される情報が最小値を示す経路は他者の利用により、混雑をまねいてしまうことを考え、他者の選択の裏を読む行動が行われていることを示唆している。本研究では、情報の限定利用性により、情報利用行動が変化する可能性を示唆したこと、相互作用を考慮できる室内実験システムを用いることにより、従来の外生的な室内実験では、観測することができない他者の行動の裏を読んだ行動に関する知見が得られることを示した。しかしながら、本研究でその存在を示すことができた性質は、通信カーナビ情報が持つ特徴の一側面に過ぎず、他の情報ソースでは得ることができない経路の情報も得ることができる「経路補完性」など、他の性質による影響に関しても明らかにしていく必要がある。また、本研究で参加型室内実験システムを用いることにより、内生的に交通状況が決定される実験環境での知見を得、従来の実験システムでは、得ることができなかった知見を得ることができる可能性を示唆することができた。
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