本研究では電動車いすの関わる交通事故における、交通事故調査技術の研究および乗員負傷に関する基礎的な知見の収集を実車実験により行った。 実施した実験と得られた知見は以下の通りである。 1.転倒実験 電動車いすにダミーを乗せ、横方向に傾けて転倒させた。この実験の目的は車両に接触した車いすが路上に転倒したときの乗員の挙動を観察し、併せて乗員が受ける負傷について検討するものである。また、この実験の知見は単独の転倒事故の基礎資料と成りえる。 実験の結果、乗員は転倒時に頭部から上半身にかけて路面舗装と接触し、そのときに重篤な負傷を負う危険性が高いことが分かった。その際に椅子の肘掛けにより上体の姿勢を保持することで、危険性を低減できる可能性が見出された。 2.衝突実験 ダミーを乗せ、停止状態の電動車いすの側面に普通乗用車を30km/hで衝突させた。この実験は事故統計から得られた主要な事故形態である交差点での事故を模擬したものである。この実験の目的は対四輔車の衝突時の車いすおよび乗員の挙動を観察し、併せて乗員が受ける負傷の検討および車両の加害部位を検討するものである。 実験の結果、乗員の上体は衝突直後に車両ボンネットに乗り上げ、その後、車両進行方向に乗員が投げ出されることが分かった。このとき、WADは140cmとなった。この値は車両の歩行者保護の対象の範囲内であり、電動車椅子の乗員も歩行者保護技術の恩恵を受ける可能性が認められた。ただし歩行者事故と同様に、衝突後に路上に落下したときに強い衝撃を受け、重篤な負傷が発生する危険性が高いことも認められた。 また事故調査技術の観点からは、衝突時に電動車いすが路面へ押し付けられるように車両進行方向に押し出されることから、タイヤ痕跡から容易に衝突地点や衝突形態が認定できることが分かった。
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