本研究では分流式下水道での多環芳香族炭化水素類(PAHs)の動態を明らかにし、下水処理過程、特に活性汚泥反応槽内における微生物分解性を明らかにすることを目的として郊外部の下水処理場を対象とし調査および室内実験を行った。下水処理場内調査、屎尿処理場調査、また調理こげ生成試験により、家庭排水を主要な寄与とする発生源を明らかにした。それによると下水由来のPAHs量負荷は、代表的な16物質の合計値(以下同じ)で30-3000μg/(人・日)であり、また放流負荷は6-300μg/(人・日)であった。これらの負荷源は主に家庭排水に由来するものであり、また屎尿ではなく、生活雑排水が主な負荷源であると考えられた。その内容としては、特に調理こげの重要性が示唆された。一方、放流水が水系の負荷へ寄与する割合を検討したところ、一般的にPAHsの主な経路とされる大気降下と比較すると、無視し得ない寄与であることが明らかになった(1割以上程度)。これは都市域においては生活排水に由来する寄与も無視し得ないことを意味している。処理場内における分解特性について述べると、その平均的な分解率は40-80%であると見積もられた。これは一般に考えられているよりもかなり高い値であり、その理由としては、PAHsが汚泥とともに処理場内部で循環をし、それにより長時間の、分解に十分な滞留時間が得られたためではないかと考えられた。いっぽう、室内実験においては、集積培養によってある程度の分解率が得られたものの、反応槽と同程度の条件では、ほとんど分解されなかった。この違いは今後の検討課題である。低分子のPAHsについては分解に関与する菌種の同定を行い、Betaproteobacteriaに属する菌が関与していることを明らかにした。
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