研究概要 |
梁端混用接合部について, 接合部性能と梁ウェブ高力ボルト摩擦接合部の負担曲げ耐力の関係を定量的に明らかにするために, 高力ボルト本数が比較的少ない場合について柱面の面外剛性に着目した実大加力実験を実施した. 実験の結果, 試験体は梁材にSN材を使用し, 指針等で推奨される接合ディテールを採用していたにも関わらず, 早期に梁フランジ溶接部および梁フランジ母材の脆性破断を生じたため, 柱面の面外剛性の影響による顕著な接合部性能の変化を得ることができなかった. しかし, 脆性破断が生じた要因を詳細に分析し, 以下の結果を明らかにすることができた. 1. 先組みBH梁ではスカラップ底にフランジとウェブの未溶着スリットが露出する. 破面観察および断面マクロ組織観察から, このスリットから延性亀裂が発生し, サブマージアーク溶接の熱影響部で破壊形態が脆性破壊となり梁フランジ幅方向に向かって破断したことがわかった. 2. 梁材に対してシャルピー衝撃試験を行った. その結果, 実大加力実験の実施温度である30℃での吸収エネルギーは, 梁フランジ母材で210J, 梁フランジ中央部で121J, サブマージアーク溶着金属部で68Jであった. また0℃での溶着金属部の吸収エネルギーは37Jであった。サブマージアーク溶接は大入熱となるため, その熱影響で梁材の吸収エネルギーが大幅に低下することがわかった. 3. スリットの影響についてFEM解析を行った. 解析の結果, スリット近傍に生じる歪度は, スリットがスカラップ底に露出している場合, 露出していない場合に比べて約1.5倍になり, ウェブを接合していない場合, 接合している場合に比べて約2倍になることがわかった. つまり, 実験ではせん断スパン比が小さかった上に梁ウェブ高力ボルト接合部は材軸直交方向にすべりを生じていたことから, スカラップ底には大きなせん断力による二次曲げモーメントが作用し, 未溶着スリットが拡がることで早期に延性亀裂が発生した可能性がある. この点については, 当初の検討事項である梁ウェブ高力ボルト摩擦接合部の負担曲げ耐力を確保する重要性を示していると考えられる.
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