研究の目的は、伝統木造建築物の保全活動を支援するための、(1) 3次元建物モデルの情報集約、(2) 場所の記憶に基づいた情報管理・参照、(3) 3次元モデル内での各種情報の可視化等を可能とするシステムの開発である。平成19年度に試作システムを構築し、平成20年度はその試験利用や評価、および若干のシステム改訂を行う予定であった。 しかし、初年度は開発したシステムの機能性が当初予定したレベルまで到達できなかったことや、モデルケースとなった東本願寺御影堂の今後の維持管理手法の議論の中で、システムの維持・利用に関する技術や人材の確保といった面で困難な点が多いという意見があった。これらを受け、2年目はシステムの更なる機能向上により、維持管理作業における情報技術活用のイメージを更に具体化し、その可能性を模索するという方向で研究を進めた。 まず年度の初めにシステムの詳細な機能設計を行い、システム開発コンサルティング会社との打ち合わせを経て、その仕様を決定した。前年度システムでは部材DBの検索項目や仮想空間内での部材のカラーリング表示などが1つの属性項目に限定されていたのに対し、新しいシステムでは部材の損傷状況や補修内容など複数項目でも検索可能とし、AND/OR検索にも対応するものとした。開発の結果、膨大な数の部材の中から特定の部材を検索することが容易になった。また、検索結果をリスト表示できるようにし、リスト上で任意の部材に任意の色を割り当て、3次元モデル上でハイライト表示する機能も開発した。検索項目は3種の属性項目のみであるが、表示リスト内には他の属性も含まれており、リスト内での柔軟な色設定が行える。これらの機能や、ハイライト時には関係しない部材を半透明表示にする等の補助機能により、部材の損傷状況や補修状況を直感的に検索でき、それらを3次元的に分かりやすく表示可能なシステムが実現した。
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