本年度は、研究代表者が10年間在住していた宮城県の歴史的・文化的建造物について、データベースの作成と事例調査を行った。データについては、日本建築学会編『日本近代建築史総覧』、『日本の建築』、新建築社発行『建築ガイドブック』『新建築』の情報が反映された『宮城の建築と街並み』(日本建築士会発行、2001年、正誤表付)を参照した。最初に本書の3種類のデータ(写真解説、一覧、正誤表)を統合し、基本となるリストを作成した。次に2007年12月現在までの自治体の統廃合情報にもとづき、データを修正した。そして800件を超える全データについてWEB検索を行い、移築やコンバージョンが発見されたものについて、公的機関の情報を確認の上でデータを追加した。さらに2007年12月現在における「国宝・有形文化財」「登録有形文化財」「県指定文化財」「日本建築学会賞」「東北建築賞」のデータを追加した。 この上で各市町村にデータの確認、用途変更と追加物件の情報提供を依頼している(これは2008年度も継続する予定である)。 また、データベース作成の過程で着目したT市内の9つのコンバージョン事例を対象に、利用状況の把握や施設所有者へのヒアリング調査など、現地調査を実施した。目的は、公共交通の利便性が良好とはいえない建造物について、コンバージョンを通した活用方策や管理上の問題点を調査するためであった。調査の結果、こうした立地場所における建造物の有効活用のために、用途変更に加えて「開催イベントの独創性の創出」「徒歩圏内にある他施設との連携」「常駐管理者の業務の工夫」「地元住民の協力」に注意が払われていることが判明した。これらは平成20年度以降の調査、及び分析の指針となる知見である。
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