本年度は前半に、昨年度から継続してきた、宮城県の歴史的・文化的建造物についてのデータベースの追加・修正作業を完了した。本データベースと昨年度の調査から、保存と公開がなされている建造物に、現用途や催事が当初の用途や建築意匠に関係しているものがあることが判明してきた。(例えば「旧登米高等尋常小学校」の現用途は、かつての教育資料を展示する資料館であり、そこでは当時の給食体験が催事として行われている)。このことから「過去の用途や建築意匠を意識した利用方法は、歴史的・文化的建造物に固有の重要なコンバージョンのあり方である」という仮説に至った。そこで後半では、この仮説に関して実態把握を行うこととした。まず、データベースを用いて調査対象を抽出した。計47件が抽出され、これら施設に「建物の概要(主に現用途)」「年間の催事」「来訪者数」に関する資料提供を依頼した。このうち年度末までに26件から資料の提供がなされた。これら資料から仮説に関して複数の活用のタイプが見出された。一つは「旧原阿佐緒邸」「旧東北大学図書館」「斎理屋敷」のように、現在の主たる用途と催事が、共に当初の用途や建築意匠と密接に関係しているものである。次のタイプは「水沢県庁記念館(現資料館)」のように現用途が当時の用途と建築意匠に合致しているものである。そして「S市・旧K家住宅」のように建物自体の保存・公開が目的で、主たる用途はないものの、建築意匠を意識した催事を行っているタイプがある。また当時の家財道具など、多少の展示をしている事例もみられる。以上をふまえて、さらに事例収集を行うこと、及び「当初の建築意匠を尊重しているものの、現用途や催事は、当時の用途と殆ど関係がない事例」の位置づけや具体的分類方法を検討することが今後の課題となった。
|