本年度は最初に、宮城県以外の東北5県に立地する重要文化財139件について事前調査を行い、「コンバージョン」とみなされる52件を抽出した。次にこれらの所有者や管理者に、過去5年間を目安に「建造物の概要」「年間行事(催事)の時期と内容」「来館者数」について資料提供を依頼した。結果、31件に関して資料を得た。分析の結果、「催事の有無」に差がみられた。また催事の有無と月別来館者数に相関がみられる事例が複数あった(ただし、催事の効果を統計的に検証するには、より多くの事例が必要である)。催事の内容については、地域民話の語り、茶会、華道、もの作り体験、企画展覧会、音楽会など多様であったが、歴史意匠という視点から、催事の志向は「a. 地域や建物の歴史、建築意匠に密接に関わるもの」「b. 殆ど関係がないもの(建物や地域に関係がないコンサートや映画上映など)」「c. 前二者の中間を目指すもの(例えば、古民家における茶会のように建物の意匠と違和感が生じにくいもの)」に分類される。民営の建造物において、上記bに該当する独創性が高い催事も散見されたが、建造物の文化的な公開のあり方として考察に値する問題をはらんでいる。また冬季に来館者数がピークの月の約1150以下になるなど、多くの事例で季節による差が目立つ一方で、「雪降ろし体験」や「年末年始の祭」を冬季の催事にするなど、冬季の運営に工夫をしている事例も見られた。施設連携と移築の関係については、岩手県T村やM村のように「積極的に移築を行い、新たな群を形成する方向」があり、これらは宮城県T町(平成19年度調査)とは対極にあたるもので、活用のための「移築」にたいする価値観が分かれていることが判る。
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