近世の木曽材の規格の詳細を、尾張藩「白鳥材木役所」関連史料『白鳥御材木奉行覚書乾』(以下『覚書』)に拠ることで、特に18世紀中期の状況について研究した。 研究方法として、『覚書』内の木材規格に関する項目を分析・整理し、表として纏めた。なお、『覚書』が成立した延享年間は、享保九年(1724)の2度目の林政改革から未だ20有余年の、厳しい採材制限下にあった時期である。この頃は林材資源の減少から立木伐採が制限され、株木や古損木からの「小物」の再生産に重点がおかれつつあった。『覚書』には、寛保二年(1742)から短榑の生産が加わったとの記述があり、さらに「小物」の規格寸法が非常に細かく決められていることに、「小物」の再生産が主体となりつつあったことの反映が確認できた。 また、木曽材の材端部に記された「間尺銘」について、その記載方法と内容を分析し考察した。これによって、木材規格の類型の詳細のほか、基準の長さや、基準とされた材種を明らかにすることが出来た。 以上の結論として、近世の木曽材は、樹種としては檜が主体で、杣取り時点で様々に規格化され伐採されたこと。建築構造材に供しうる長材の産出は、一丈三尺の「二間」が規格寸法の基準となっていたこと。しかし、このような長材よりも榑木の生産に比重が置かれていたこと。特に当時の林政改革を反映して、再生産材である「小物」の産出に力が入れられつつあったこと。が結論づけられた。 近世の建築材料に関しては、普請個別の状況を扱った研究が多かった。これに対して本年度の成果のように、林業史上の生産史的視点を導入した上で、建築生産史的な視座から規格や材種を分析したことは、今後、歴史的な建築材料の生産状況を体系的に研究してゆく上で非常に意義の深いものである。本研究の成果に具体的な使用状況の考察を加えることで、建築史的な視点からさらに体系化していくことが今後の課題である。
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