本研究の目的は、ヘレニズム期のギリシア建築を設計法と施工法の一端を明らかにすることであった。具体的には、1) ヴェルギナの宮殿に関する現地調査に基づく研究、2) マケドニア地方のヘレニズム建築の比較研究、3) コリント式オーダーの様式形成に関する研究、の三つの課題に取り組んだ。研究開始後、課題1) と2)が考古局の修復工事や、資料公開の制限などで調査が難しいことが判明した。そこで、コリント式オーダーの様式形成に関する研究に重点をシフトさせた。 1 ヘレニズム期のコリント式オーダーの様式形成に関する調査と分析 ペロポネソス半島にあるメッセネのアスクレピオス神域のストアで発見された、ヘレニズム期のコリント式柱頭を中心に調査を行った。この柱頭は、1960年ごろに発掘されたが、今日まで十分な調査がされてこなかった。そこで現地で実測図を作成し、詳細な分析を行った。その結果、 (1) メッセネのコリント式柱頭は、正面中央の軸線的な植物模様を持つ点が、テゲアやネメアで発見されたペロポネソス半島のコリント式柱頭と類似していることが分かった。 (2) 植物模様と人物像が組み合わせて用いられている点は、他に例がないことが分かった。 (3) 年代については厳密に確定できないが、アスクレピオス神域にある他の建物の編年などと比較して、紀元前3世紀の第四四半期ごろと考えられることが分かった。
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