研究概要 |
本研究は,ヨウ素が有機物の高分子化を促進させる効果に着目し,それをセルロース系高分子の炭素化に適用することによって,バイオマス資源からの新たな機能性炭素材料の創製を行うことを目的とした.本年度では実施計画に従い,セルロース系高分子の1種であるデンプン及びキトサンを出発原料に用いた.これらを糊化あるいは酸溶液に溶解させ,その後ガラス基板にキャストとすることでフィルムを作製し,両フィルムの炭素化に及ぼすヨウ素処理の影響について検討を行った. デンプンフィルムの場合,ヨウ素□デンプン反応により青紫色に呈したフィルムを炭素化すると,炭素化前のフィルム形状を保持したフィルム状炭素体を得ることができた.この炭素体の残炭率はヨウ素処理をしない場合よりも約2倍となり,さらに700m^2/g程度の比表面積を有したミクロ多孔性材料であることが分かった.一方,キトサンを出発原料とすると,ヨウ素との複合化ではかえって炭素化前のフィルム形態を崩壊させ,非多孔性の炭素体に変換された.ヨウ素処母をしない場合は,キトサンからもフィルム状炭素体を作製できたが非多孔性のままであった.以上のことから,両原料はほぼ同様のグルコース構造を有しているにも関わらず,ヨウ素に対する反応性,炭素化特性及び細孔特性が大きく異なることが判明した.通常,活性炭などのように炭素体に多孔性を賦与する場合,炭素化処理に加え賦活処理が不可欠である.しかしながら,本試験ではそのような賦活処理をせずとも,炭素化前に前もってヨウ素と反応させることで,原料次第ではガス吸着に有効なミクロ孔性を発達させることが可能であることが分かった.ヨウ素及びセルロース原料は日本で大量生産可能な資源であることから,両者の複合化により,得られる炭素体の収率及び細孔特性を制御できる点は,安価かつ簡便に新規な機能性炭素体を創出できる可能性を秘めている.
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