生体材料、電子材料など様々な分野で応用が期待されている水酸アパタイトの分解反応やそのイオン伝導は、結晶構造、特にOHイオンと密接に関係している。また近年深刻化しているエネルギー・環境問題を解決するために注目されている光触媒に関しては、我々は層状構造を持っTa系ペロブスカイトに異種イオンをドープすることにより、その特性が高くなることを明らかにしている。しかし、その理由は明らかになっていない。そこで本課題では水素イオン、酸素イオンに比較的敏感な中性子回折により、アパタイトの欠陥構造、ペロブスカイトにおける酸素八面体の構造を明らかにし、その結晶構造と物性との関係を明らかにすることを目的として研究を行った。 本年度に実施した内容は、欠陥を導入した重水素置換水酸アパタイトならびにタンタレートの合成である。錯体重合法を用いて、精密分析に充分耐えられる均一な試料を合成した。合成した試料を各温度で熱処理後、室温へのクエンチすることにより水酸基の欠陥量の異なった試料を作製した。更に中性子回折測定用の試料として、重水(D_2O)を用いてアパタイト中のOHサイトをODサイトに置換した試料を作製した。欠陥サイトを有する水酸アパタイトのD置換は未だに報告例はないが、これに成功した。また光触媒であるバリウム置換タンタレートに関しても、組成が極めて均一な試料を合成できる錯体重合法を用いて合成を行った。合成した試料に対して、まずはラマン散乱とNMR測定を行った。しかしラマン散乱、NMRでは、水酸基や酸素イオンに関しては感度良い情報を与えるが、具体的な原子の位置、更にはイオンの伝導経路などは決定できない。そのため次年度は具体的な結晶構遣に関して信頼性の高い情報を与える中性子回折測定を実施する。
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