研究概要 |
Nbをドープした二酸化チタン(TNO)多結晶薄膜の透明導電性を実現することに取り組んだ。TNOの多結晶薄膜を作製するには2つの合成ルートがある。1番目のルートは,加熱した基板に気相法で直接多結晶薄膜を基板上に形成する方法であり,2つめは,非加熱の基板上に気相法でアモルファス薄膜を形成し,それをアニールして結晶化させる方法である。本年度は,2番目のルートで高い導電性を有するTNO多結晶薄膜を作製できる手法を開発することに取り組んだ。 アモルファス薄膜の作製に,シード層を用いた2段階成膜法という手法を用いると,アニール後の多結晶薄膜が極めて低い抵抗率と高い透明度を同時に満たすようになることがわかった。2段階成膜法とは,シード層として高い酸素分圧下(酸化条件)でアモルファス薄膜をガラス基板上に形成し,その上に,低い酸素分圧下(還元条件)でアモルファス薄膜を積層する手法である。この積層アモルファス薄膜を,真空中(1×10-2 Pa)で400℃,1時間アニールして,TNO多結晶薄膜を作製すると,抵抗率6.5×10^<-4> Ωcmが得られた。透明性も良好であり,可視光領域において吸収率は5%以下である。酸化条件で成膜したシード層は,X線回折(XRD)測定により,アニール後の結晶性を改善する役割を持つことが判明した。シード層を形成した積層アモルファス薄膜をアニールすると,シード層なしの場合と比べて,結晶性は劇的に改善する。この結果,効果的に電子輸送が行われるようになり,低い抵抗率が得られたものと考えられる。本研究で得られた抵抗率6.5×10^<-4> Ωcmは,実用化されている透明導電性薄膜材料に比肩する値であり,本材料の実用化が視野に入ってきたといってよい。 来年度からは,より実用的なプロセスを開発するために,上述の「1番目のルート」によって透明導電性の多結晶TNO薄膜を作製することに取り組む予定である。
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