大気および室温においてガンマ線照射されたパーフルオロスルホン酸系イオン交換高分子膜のプロトン伝導度を直流電気抵抗法を用いて測定した。照射されたイオン交換高分子膜のプロトン伝導度は約50kGyの線量で未照射の高分子膜のプロトン伝導度の約3桁高い値を示し、プロトン伝導特性の向上が示唆された。50kGy以上の線量では、プロトン伝導度は線量に対して一定の値を示すことがわかった。次に、真空および室温においてガンマ線照射下における高分子膜のプロトン伝導度をその場で測定した。プロトン伝導度は約50kGyの線量では照射前のプロトン伝導度の約1.5倍程度増加するが、照射を止めると照射前の伝導度に戻ることが判明した。これは主に電子励起による伝導電子密度の増加のために生じる動的照射誘起現象であり、また、プロトン伝導度が放射線(ホットアトム)効果によって増加しないことを示している。ここで水蒸気を真空装置に導入すると、プロトン伝導度は水蒸気暴露時間の増加と共に増加し、約1時間の暴露後には照射前のプロトン伝導度の約3桁高い値に達することがわかった。照射された高分子膜表面と水蒸気間の相互作用を接触計を用いて調べたところ、膜表面の親水性がホットアトム効果により向上することが明らかになった。さらに、反跳粒子検出法を用いて、照射された高分子膜の表面から約1200nmの深さまでに吸収された水素の捕捉濃度は、照射前に比べて増加することも確認した。ガンマ線照射により高分子膜中に生成された欠陥種は、紫外・可視分光器を用いることによりフルオロカーボンラジカルやペロキシーラジカルおよびC=0グループの不飽和結合であることが観測され、これらのラジカル欠陥種が水蒸気の解離速度、プロトン生成量および高分子膜表面からバルク内へのプロトン輸送機構を大きく変化させ、プロトン伝導度の増加を導いたと考えられる。
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