ガスハイドレートの特性を活かした新規水素貯蔵プロセスの基礎研究として、既知の各種ガスハイドレート結晶構造への水素包蔵能力について検討した。本年度は、すでにハイドレートの結晶構造が明らかとなっているガスおよび環状エーテル、アンモニウム塩に水素を添加した系からなるクラスレートハイドレートの高圧相平衡測定、ラマン分光分析を行った。氷点から常温付近、数MPa程度の圧力では、エタン、シクロプロパンなど構造I型結晶構造をとるゲスト分子から生成するハイドレートには水素は包接されず、プロパンやテトラヒドロフランなど構造II型結晶構造をとるゲスト分子であれば、数MPa程度の比較的低い圧力域であっても、水素がハイドレート籠の一部を占有することを明らかにした。また、ハイドレート構造が不明、もしくは既報間に差異が認められる第4級アルキルアンモニウム塩について、アルキル鎖の長さをC2からC4まで変化させて水素包蔵能力を検討した。その結果、テトラブチルアンモニウム塩を用いた場合に水素を包蔵することを見出した。また、対アニオンを変えることで熱力学的安定性が向上すること、圧力によって構造が相転移することを見出し、この構造相転移の結果、水素の包蔵量が急激に増加することを見出した。また、ハイドレート構造が構造II型であれば、ハイドレート籠の水素結合ネットワークを破壊することなく、水素の加圧・減圧(圧力スイング)によって、水素の吸収・放出が可能であることを見出し、その吸収・放出速度を測定した。放出速度は実用面で考えても良好な速度であるが、吸収速度は放出速度と比較してかなり小さい。本年度の数多くのゲスト分子を用いた研究から、次年度における水素吸蔵量の増加、吸蔵速度の向上を目的とした水素包蔵を助ける新規ゲスト分子の探索指針が得られたのではないかと思われる。
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