本研究は、近年新しい鉄鋼材料として、注目されているTwinning Induced Plasticity(TWIP)鋼に対して、結晶粒を微細化する組織制御による機械的性質の向上の可能性を検討することを目的としている。TWIP鋼(30%Mn-3%Si-3%Al-Fe)に対して、室温での圧延と焼鈍により平均粒径1μm以下から100μm程度までの広範囲の平均粒径を有する各種等軸結晶粒組織を作成した。加えて、摩擦かく攪拌接合によっても結晶粒微細化が可能でることも明らかとなった。組織の形態観察(粒径測定・分布状況)に加えて、TEM/菊池線法による局所方位測定を行い、得られた微細粒組織の粒界は多くが方位差15度以上の大角粒界からなる実質的な多結晶体であることが明らかとなった。さらに微細粒TWIP鋼では、平均結晶粒径を1μm程度にまで微細化した場合、変形双晶の発生は著しく抑制される一方で引張軸が[111]に近い結晶粒ほど、変形双晶が出やすいという結果も得られた。さらに、広範囲のひずみ速度(0.001/secから1000/sec)における引張試験を行い、各種条件での応力ひずみ曲線を測定した結果、微細粒組織であっても、低速・高速変形のいずれの場合でも、大きな延性と高強度を両立する優れた機械的性質を示すことを明らかにした。一方で、ひずみ速度の増大による強度上昇率(例えばm値)は、結晶粒の微細化とともに減少する。これらの実験結果より、TWIP鋼において、優れた強度-延性バランスを示す理由は、従来指摘されているような変形双晶の寄与だけではなく、TWIP鋼の低い積層欠陥エネルギーに起因する、動的回復の抑制にも原因があることが明らかとなった。
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