シリコーン(ポリジメチルシロキサン)は、無毒性である、生体反応性が低い、血液凝固性が低いといった生体適合性に加え、耐熱性、耐寒性、気体透過性に優れているという特長から医療用材料の幅広い用途で使用されている。しかし、その生体反応性の低さにより生体内で周辺組織と癒着せず、様々な医療用途の中でも特にカテーテルとして用いられる際に、周辺組織との間に隙間を生じやすく、これによる外界からの雑菌侵入が問題となる場合がある。これに対し、プラズマイオン注入法(PBII)によりシリコーン表面を炭素化し、生体組織との接着性を向上させることを目的とした研究を行った。プラズマイオン注入法は従来のイオンビーム照射法に比べ、低コスト、短時間、三次元の試料に対し照射可能であることが特長として挙げられ、大量生産に非常に適しているといえる。本研究では希ガスイオンで改質を行い、表面形状解析、表面組織解析、細胞接着試験を行った。その結果、印加負電圧(イオンエネルギー)が高いほど試料表面の炭素化が進行し表面粗さが増大することが明らかになった。炭素化は主に水素、酸素の脱離に起因し、表面粗さの増大は、結晶部分とアモルファス部分のエッチング速度の違いに起因すると考えられる。一方、細胞接着性は処理電圧に比例せず、-2.5kV〜-5kVでピークを示すことが明らかになった。高電圧側で細胞接着性が低下する理由は表面粗さが増大し、細胞との接着面積が減少するためと考えられる。これらの結果より、次年度以降表面粗さの増大を抑制する照射方法を考案する必要があると思われる。
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