シリコーン(ポリジメチルシロキサン)は、無毒性である、生体反応性が低い、血液凝固性が低いといった生体適合性に加え、耐熱性、耐寒性、気体透過性に優れているという特長から医療用材料の幅広い用途で使用されている。しかし、その生体反応性の低さにより生体内で周辺組織と癒着せず、様々な医療用途の中でも特にカテーテルとして用いられる際に、周辺組織との間に隙間を生じやすく、これによる外界からの雑菌侵入が問題となる場合がある。これに対し、プラズマイオン注入法(PBII)によりシリコーン表面を改質し、生体組織との接着性を向上させることを目的とした研究を行っている。本年度は、導入ガスとしてトルエン、トリフロロベンゼン、ヘキサフロロベンゼンを選択し、基材表面にダイヤモンドライクカーボン(DLC)およびフッ素化ダイヤモンドライクカーボン(F-DLC)を生成する実験を行った。炭素に対するフッ素ドープ量は成膜電圧と原料ガスの選択により5〜60%の間でコントロール可能であった。水接触角はDLCの74°に対し、F-DLCは80°以上の値を示した。ヘキサフロロベンゼンを用いて成膜したF-DLCの高度及びヤング率はDLCの5分の1以下を示した。非常に軟らかい膜であるため耐摩耗性には劣るものの、基材に対する追従性は良く剥離しにくいと考えられ、生体内における使用に関しては好都合であることが明らかになった。また、F-DLC表面には酸素原子が存在しており、成膜時に生成したダングリングボンドが空気中の酸素または水によって終端されることが明らかになった。このことを用いて、放射線や薬品を用いずに所望の官能基をDLC表面にグラフトすることが可能である。
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