研究概要 |
本研究ではシリコーンに代表される生体不活性高分子材料に対し、プラズマイオン注入法(Plasma based ion implantation, PBII)を施すことにより表面の生体組織適合性を向上させることを目的としてきた。このことにより、現在医療現場で問題となっているトンネル感染(カテーテルを介した細菌感染)の問題が解決出来ると考えている。本年度は、PBII処理した材料表面の細胞接着が照射量の増大とともに向上した後、過剰照射では低下することに着目し、複数のイオン種において最適な照射量を確定させた。この試料を依頼試験によりウサギ皮下に埋入し、3週間後に取り出して観察したところ、未処理試料は組織との癒着が見られなかったのに対し、照射後は完全に癒着していることを確認した。最適照射量は照射するイオンのエネルギーが一定の場合、イオンの質量の増大に伴って低下することが明らかになった。これは単位深さ当たりに与えるエネルギー(線エネルギー付与)から説明出来る。過剰な照射によって細胞接着低下していく要因として、表面組成の変化と粗さの増大が考えられたため、比較対象としてイオン照射で表面に微細突起が生成するPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)を選定し細胞接着性を調査したところ、細胞は突起先端を跨ぎながら照射済シリコーンよりもはるかに粗い表面でも接着することが明らかになった。このことより、高照射量において細胞接着を抑制する原因として組成変化(炭素化、表面官能基の多様性の減少)が最も可能性が高いことが明らかになった。
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