研究概要 |
本研究はステンレス鋼溶接部の信頼性向上を図るべく、金属のピーニングなど強加工時に表面の組織に発現する結晶の微細化に着目し、これをステンレス鋼溶接部に導入した場合の材料の機械的特性および電気化学的特性を明らかにするとともに、これを評価する実用的な手法の構築を目的とする。本年度はキャビテーション・ショットレス・ピーニング(CSP)によって表面処理された溶接部の機械的特性および耐食性を評価するために試験片を考案・作成し,これらの評価方法の検討を行った。CSPによって比較的滑らかな処理面を得ることができるため,表面の特性を直接測定することが可能である。 非等方的で粗大な粒をもつ溶接組織は回折環が断続的である。2D法によるX線回折により,ピーニングした溶接部の回折環は断続性が緩和されていることがわかった。そこで,応力測定法であるsin^2ψ法を用いてψ角度が0〜65゜における5゜毎の回折の有無を未処理材と処理材で比較したところ,処理材は明瞭な回折が得られるψ角度が多かった。また,特定のψ角度は未処理材でも検出することができ,これらのピーク形状や2θ-sin^2ψ図の傾きはCSPの処理の強さに影響されていることから,sin^2ψ法による微細化の簡易評価を行うことができると推定される。 充分なCSP処理を施した溶接部は疲労強度の向上は100MPa以上に達するが,表面組織の微細化を目的とした軽微なCSPの場合でも時間強度を50MPaほど改善することができる。また、この軽微なCSPで処理された溶接部のアノード分極曲線において不動態化電流密度および不動態維持電流密度が僅かに減少しており,耐食性の向上が期待できる。 さらにCSPの処理の程度を強くした試験片を用意し,CSPの処理の程度と溶接部表面の組織の変化との相関,およびこれらの機械的特性および電気化学的特性の変化のメカニズム解明を目指す。
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