研究概要 |
表面処理技術は, 要求される表面機能を多くの工業製品に付与することにより省エネルギー・省資源に重要な貢献を果たしている. 硬質膜の工業的適用を考慮する際に関連する硬質膜の要素は多岐にわたることから, 膜特性を最適化し, 切削工具および金型への被覆がなされてきたが, 近年では, 膜の長寿命化はもとより, ドライ加工や高面圧に耐えうる硬質膜の誕生が環境保全の観点から期待されている. 本年度は, (Cr, Al)Nの相変態領域に希土類元素とシリコンを添加した多元系クロム系窒化物の耐酸化性と微細構造の評価を実施した. 試料は, 合金ターゲットを用いて, 高周波マグネトロンスパッタリング法により作製した. 原子間力顕微鏡の観察結果から, 立方晶をする多結晶の連続膜が形成され, 膜の表面粗度は8.0nm以下となった. 熱重量分析器により, 大気圧環境下で試料を1000℃まで加熱したところ, 1000℃において0.30mg/cm-2以下の重量増加となった. 従来の(Cr, Al)Nの重量増加は, 80mg/cm-2であることから, 微量の異種元素の添加により, 耐酸化性が向上することがわかった. そして, 大気熱処理後の膜表面には, 酸化アルミニウムと酸化クロムが主成分となる酸化膜が形成された. 酸化の進行と並行して, 多元系クロム系窒化物には相変態と第2相の析出が生じ, X線回折法の結果から, 窒化クロムと六方晶の形成が確認できた. 本研究課題では, クロム系窒化物の相変態領域に着相した膜材料設計手法の有効性を示すことができたが, 切削工具や金型への適用をするために, 膜組織の緻密性・密着性・離型性等の考慮した硬質膜の創製が必要不可欠であることが示唆された.
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