生体膜の主な構成物質であるリン脂質は、水溶液中で自己会合し、脂質二分子膜小胞(リポソーム)と呼ばれるベシクル構造をとる。ベシクルは実際の細胞膜と類似した組成・構造を持ち、その大きさは数十nm〜数百μmである。ベシクルは、細胞膜の単純なモデルとしてだけではなく、医薬品、食品、化粧品などに広く用いられている。このような製品の製造プロセスまたは物性評価において、固体表面へのベシクルの付着現象を理解することは極めて重要である。そこで本研究では、ベシクル・粒子間の相互作用力の直接測定を原子間力顕微鏡(AFM)により行った。 中性リン脂質として、DOPC(dioleoyl phosphatidylcholine)を用いた。粒子として、カーボン粒子(表面が疎水性)、およびシリカ粒子(表面が親水性)を用いた。DOPC分子が溶解した水溶液中において、疎水性のカーボン粒子表面に対して、DOPC分子がその疎水鎖を表面に向けて親水基を水溶液側に向けるように吸着することにより、DOPCの単分子吸着層を形成していた。この吸着層の存在により、カーボン粒子・ベシクル間には、両表面を引き離す時に引力すなわち接着力が観察された。一方、親水性のシリカ粒子表面に対して、DOPCは吸着層を形成しなかった。そのため、シリカ粒子・ベシクル間には、両表面を引き離す時にも斥力のみが生じ、接着力は観察されなかった。
|