生体膜の主な質であるリン脂質は、水溶液で自己会合し、脂質二分子膜小胞(リボソームと呼ばれるベシクル構造をとる。ベシクルは実際の細胞膜と類似した組成・構造を持ち、その大きさは数十nm〜数百μmである。ベシクルは、細胞膜の単純なモデルとしてだけではなく、医薬品、食品、化粧品などに広く用いられている。このような製品の製造プロセスまたは物性評価において、固体表面へのベシクルの付着現象を理解することは極めて重要である。 本年度は、前年度にAMF測定した巨大ベシクル-粒子間の相互作用力と比較するため、同じ粒子(カーボン粒子、シリカ粒子)を用いて生細胞一粒子間の相互作用力のAFM測定を行った。生細胞表面から各粒子を引き離す時、階段状のフォースカーブが得られた。これは、生細胞表面と粒子表面との脱着が一気に起こるのではなく、段階的に起こることを示唆している。このフォースカーブを詳細に解析すると、近距離(<3〜5μm)では急な階段に相当するJステップ、遠距離(>3〜5μm)では緩やかな階段に相当するTステップが見られた。「1段当たりの高さ」に相当する接着力の平均値は、JステップとTステップとも35〜40pNでほぼ同じであった。一方、「1段当たりの水平距離」に相当する粒子の移動距離間隔は、Jステップで数十nmと短く、Tステップでは、1〜3μmと長かった。この階段状のフォースカーブは、カーボン粒子・ベシクル間でも観察されている。今後は、このようなフォースカーブをさらに観測・解析することにより、生細胞とベシクルの脱着挙動をより詳細に検討することが課題になるであろう。 巨大ベシクル-微粒子間接着のモデリングを目的として、我々が世界に先駆けて開発した「陰溶媒モデルによる界面活性剤水溶液系の大規模な分子シミュレーション手法」をさらに発展させることを試みた。
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