研究概要 |
昨年度では, 温度差(熱移動)と濃度差(物質移動)が液滴内部流動に及ぼす影響を個々に検討してきた. しかし, 実際のインクジェット液滴ではこれらは同時に考慮すべきである. そこで本年度では, まずこの2つの対流駆動因子を同時に考慮した解析コードを開発した. その結果, 磁場を印加していない場合では, 温度依存の表面張力対流がまず顕在化し, 追って溶質濃度依存の表面張力対流が支配的になることがわかった. その際初期溶質濃度ならびに液滴の接触角が流動に影響を及ぼすこともわかった. 初期溶質濃度が高くなると溶液粘度が高くなるため, 初期の流動は遅くなる. しかし, 表面張力は濃度に対して2次関数で近似できるため, 高濃度では表面張力勾配も大きくなる. その結果, 濃度依存の対流がより強くなる. また, 接触角に依存する蒸発速度分布を考慮すると接触線近傍の濃度が高くなるため, 液滴表面に沿って接触線方向の流れが誘起される. 次に, 基板上のインクジェット液滴の蒸発過程における磁場印加効果を数値解析により検討するため, 磁場が及ぼす溶液物性すなわち溶液の磁化力を測定した. その結果, 溶液は反磁性であるため, 温度の影響を受けないこと, また磁化率の濃度依存性は線形で近似できることがわかった. このデータを数値解析コードに考慮し, 磁場印加強度ならびに磁極と液滴との距離が及ぼす影響を検討した. その結果, 温度依存の表面張力が強い場合には磁場印加効果は小さいこと, また液滴表面の濃度分布に影響を及ぼし, 流動を促進または抑制できることがわかった. また, 磁極の位置と液滴内流動の組み合わせによってその効果が異なることもわかった.
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