本研究は、温度、電場、光などの外部環境の微小な変化に応答して、膨潤度や親・疎水性などの物理化学的特性が劇的に変化する刺激応答性ゲルの新規な構造制御技術の開発と、その技術を駆使した新規な機能性ソフトマテリアルの創製を目的とする。平成19年度には、約33℃を境に低温で膨潤し高温で収縮する感温性N-イソプロピルアクリルアミドゲルを例に、モノマーを含む水相に不活性な微小油滴を分散させたO/Wエマルションの水相をゲル化させるエマルションゲル化法を確立し、新規なエマルションゲル(油滴を内包)および多孔質ゲル(油滴を洗浄除去)を創製した。この種のゲルはこれまでに類を見ない独特な構造であり、刺激応答性ゲルの分離・反応・貯蔵の場への応用展開を加速するといえる。この種のゲルを応用する際には、孔または油滴の大きさおよび体積分率の制御が重要となる。そこで平成20年度は、エマルションゲル化法による高度な構造制御について検討した。界面活性剤の種類と量、水相と油相の体積比など種々の条件でO/Wエマルションおよびゲルを作製した。界面活性剤の種類と添加量は、エマルションゲルの作製の成否および油滴径に多大な影響を及ぼす重要な因子であることを見出し、1〜100μmの範囲で使用目的に応じた油滴径を有するエマルションゲルの作製の設計指針を構築した。また、エマルションゲルを用いた温度応答性の新規な薬物徐放材料を開発した。エマルションゲルを合成する際の油滴にあらかじめ脂溶性薬物(インドメタシンを使用)を溶解させておくことで、ゲルの合成と薬物の充填を同時に行った。このゲルの温度スイングによる薬物放出のオン・オフ制御に成功した(40℃で放出し、25℃で放出しない)。薬物放出挙動は、ゲル内の薬物の拡散速度の温度依存性に基づくものであることを明らかとした。
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