申請者は、独自に開発した組換え抗体、二重特異性diabody(Ex3)の調製時に、微量だが、極めて強力ながん細胞殺傷能を有する多量体化した分子種が含まれることを、近年明らかにした。本研究は、より効果的な治療薬の設計に向けた、この構造体の高効率な誘導を目指して、1、クラスター構造の同定、2、均一なクラスター構造の形成を促す最適なリンカー配列の選択、3、クラスター化構造体の詳細機能解析と調製プロセスの実用性の検証、の観点から研究を進めている。本年度の研究成果は以下の通りである。 1、Ex3のクラスター構造の同定:これまでにEx3の多量体画分が、明らかに強い結合活性を示すことが確認されている。これは多量体化による多価性の獲得と考え、等温滴定型熱量測定により両抗原に対する化学量論比の測定、及び結合価数の解析を行った結果、それぞれの抗原に対して二価の結合、即ち多量体画分は、均一な四量体であることが明らかになった。また静的光散乱法、動的光散乱法による分子量、及び粒子径の解析からも四量体を支持する結果を得た。さらに、表面プラズモン共鳴法を用いた両抗原間の架橋能の評価においても多価化による結合活性の増強が見られた。 2、Ex3の均一な多量体分子の形成を促す最適なリンカー配列の選択:Ex3の多量体形成を促すリンカー配列の選択に向けて、まず抗EGFR一本鎖抗体(scFv)の多量体化を試みた。リンカー長、及び配向性を変化させ、ゲルろ過により評価を行ったところ、リンカー長の短縮に伴うscFvの多量体化を観察することができた。そこで、これらの知見に基づき、Ex3のリンカーの検討も行ったところ、配向性を変化させ、リンカーを除去することで四量体を主とする分子の構築に成功した。今後は、詳細な機能解析を進めると共に、さらにリンカー長、構成アミノ酸の検討等により最適化を進める予定である。
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