研究概要 |
本研究は,糖尿病治療薬であるインスリンの腸からの吸収性を向上させるために腸粘膜付着性を有するパッチ型製剤の開発を目指している。そのために,インスリン吸収部位である腸粘膜層へ直接インスリンを放出し,粘膜から腸液への漏洩を抑制できる新たなインスリンデリバリーデバイスの調製を検討した。 初年度は,パッチ型製剤の開発を行った。腸粘膜付着層と薬物不透過層からなるシート中にシリカ製剤を組み込んだ。シリカ中にはインスリンを溶解した油が封入されており,腸液にさらされると自発的にエマルションを放出する。この手法により,腸粘膜絨毛間へのエマルションの放出,そして内封したインスリンの粘膜層からの吸収を期待した。インスリンは,界面活性剤でコーティングすることで,膜透過性に有利な脂溶性のナノ集合体を形成している。 この製剤によるin vitroでのインスリン放出を観察したところ,放出はほとんどなかった。これは粘膜付着性高分子がシリカ表面を被覆してしまったためであった。その被覆を軽減することを試みたが,シートからのシリカの脱離が観察された。 そこで,製剤設計を再検討し,シリカ粒子を用いずに薬物を溶解した油を直接粘膜付着性シートへ含侵させることにした。この製剤によるインスリンの粘膜透過性を腸粘膜の構造を模倣した人工膜(リン脂質と有機溶媒から形成)を用いて評価したところ,インスリン水溶液に比べパッチ製剤ははるかに薬物透過性を向上させることが確認された。 現在,製剤の組成の最適化と動物実験による薬物吸収性の評価を行っている。
|