研究概要 |
本研究は、材料表面や細胞内部で生じる分子クラウディング環境に着目し、定量解析が可能な分子クラウディング実験系においてDNAとRNAの分子間相互作用を解明し、特殊な分子環境で行われる核酸の分子認識と構造形成を解明することを目的としている。本年度は、前年度に引き続いて分子クラウディング環境における核酸の構造形成に対する定量解析を行い、新たに遺伝子発現制御に関わるDNAの左巻き構造(Z型構造)が安定化されることを見出した(Mol. BioSyst., 2008, 4 (Emerging investigators issue), 579-588)。この研究ではさらに核酸構造についても検討を行い、分子クラウディング環境はヘアピン構造などの塩基対構造には影響を与えないことを明らかにした。一方で、ポリエチレングリコールや多糖類などの様々な共存溶質によってリボザイムの酵素活性が数倍〜数千倍も向上することが示された(Nucleic Acids Symp. Ser. 2008, 52, 519-520)。このように、細胞では重要な働きを担っているが、通常の水溶液中では形成されにくいDNAやRNAの高次構造が、分子クラウディング環境では安定に存在できることが明らかになった。本研究では、細胞内部のような特殊な分子環境をモニターできる核酸分子を開発するために、ヘアピン構造を使った実験系の構築も目指している。ヘアピン構造ではループ配列や鎖長、あるいは非塩基対部位の導入によって構造体の安定性をコントロールすることが可能である。この特性を利用した新規実験系(Chem. Commun., 2008, 700)によって、細胞のカチオン性分子をトリガーとして構造変化する様々な構造安定性をもつヘアピンDNA分子群を得ることができた。さらに、この構造安定性が厳密にコントロールされたDNA分子群を用いることで、カチオン性分子に応答する濃度領域、つまりシグナル応答のダイナミックレンジが、ループ配列と鎖長を変えることで簡単に調整できることも示された。
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