放射性廃棄物の地層処分の安全評価においては、放射性核種の地中での反応挙動を評価しなくてはならない。これらの反応は自然界の地層中で起こるため想定の必要な反応条件は非常に多岐に渡り、実際に実験室系ですべての条件についてこれを求めることは不可能である。ゆえに標準条件での平衡定数より種々の条件へ外挿していくことが必要となるが、科学的に充分妥当な外挿を行う為には反応の詳細な機構の理解が不可欠であり、このためには反応の平衡定数(ギブズ自由エネルギー)のみならずエンタルピーやエントロピーなどの熱力学量の情報が必要となる。放射性核種の中でもウランやアメリシウムといったアクチノイド元素は安全評価上特に重要な元素であるが、これらの金属イオンと有機酸塩による錯生成を調べるには、有機酸自身の酸解離の平衡定数が必要となる。このため、本年度は錯生成熱力学量決定のための準備実験としてフタル酸、アジピン酸等の有機酸について、電位差滴定(アルカリを加えていってその時のpcHを測定する)を行い、25℃における酸解離定数を決定した。また、酸解離にかかわるエンタルピーおよびエントロピーも、金属イオンとの錯生成熱力学量との比較検討のために重要となるので、これについては熱量滴定により決定した。この結果、エンタルピーおよびエントロピーを求めたところ、数kJ/molの程度のエンタルピーを高い精度で測定することが出来た。得られた値から取り扱ったプロトン化反応の-△GはT△Sの項に支配されており、着目反応の駆動力はエントロピー変化であることがわかった。
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