研究概要 |
放射性廃棄物の地層処分の安全評価においては、放射性核種の地中での反応挙動を評価しなくてはならない。これらの反応は自然界の地層中で起こるため想定の必要な反応条件は非常に多岐に渡り、実際に実験室系ですべての条件についてこれを求めることは不可能である。ゆえに標準条件での平衡定数より種々の条件へ外挿していくことが必要となるが、科学的に充分妥当な外挿を行う為には反応の詳細な機構の理解が不可欠であり、このためには反応の平衡定数(ギブズ自由エネルギー)のみならずエンタルピーやエントロピーなどの勢力学量の情報が必要となる。本年度は昨年度に引き続き代表的なアクチノイドイオンであるウラニルイオンと有機酸との錯生成についての検討を行った。有機酸としては芳香族ジカルボン酸の2つの官能基をつなぐ芳香環中にそれぞれ窒素、硫黄および酵素を有するジピコリン酸:DPA、2,5-チオフェンジカルボン酸:TDCA、2,5-フランジカルボン酸:FDCAを取り上げた。DPA, TDCA, FDCAのプロトン化定数およびウラニル(VI)イオンとの錯生成定数は、電位差滴定により決定した。得られた滴定曲線をHyperquad2003で解析し平衡定数を導出した。プロトン化および錯生成反応のHについては等温型マイクロカロリメータ(ITC 4200, CSC)を用いて熱量滴定を行い、測定した発生熱量から決定しだ。得られた熱力学量を基に配位子構造の違いによる錯生成反応への影響について考察したところ、2つのカルボキシル基を接続する芳香環に含まれる原子の違いが、エンタルピー効果として錯生成に影響を与えることが分かった。また、前年度検討した脂肪族ジカルボン酸の錯生成がエントロピー駆動反応であるのに対し、今年度検討した芳香族ジカルボン酸の錯生成はエンタルピーおよびエントロピー両方が反応の駆動力となっていることが分かった。
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