原子力発電は我が国の主幹電源であり、発生する劣化ウランの量も膨大である。しかし、大部分の劣化ウランが利用のあてもなく保管、管理されている。劣化ウランの有効利用法として、ウランに特徴的な化学的性質を利用した電力貯蔵用のウラン・レドックスフロー電池が提案された。 本研究では、ウラン・レドックスフロー電池における放電状態の正極活物質に相当するウラニル(5)UO2+の化合物について、その安定性と構造を明らかにすることにより、電池正極活物質となる錯体を創製するために必要な知見を得ることを目的としている。本年度では、様々なウラニル(6)有機錯体を合成し、これまでに我々が確立した方法を用い、ウラニル(5)溶液の経時安定性の評価を計画した。ウラニル(6)のacac錯体、ba錯体、dpm錯体やdbm錯体について定電流電解還元を行うことにより、ウラニル(5)錯体溶液の調製を行った。このとき、電極反応および溶液内反応を観察することによりウラニル(5)の定量的な生成を確認した。これまでウラニル(6)からのウラニル(5)錯体の調製法としては、還元剤を用いた方法が僅かに知られるのみであった。本研究において新しい調製法が提案できたことは、今後の研究発展のために非常に重要である。次に、電解還元により調製したウラニル(5)錯体の経時安定性を、分光学的手法を用いて評価し、β-ジケトン配位子の構造がウラニル(5)の安定性に大きく寄与することを観察した。これは、電池正極活物質としてのウラニル錯体の選択を行うための重要な指標となる。
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