研究概要 |
原子力発電において派生する劣化ウランは日本で1万トン以上、世界では100万トン以上と非常に膨大である。しかし、大部分の劣化ウランが利用のあてもなく保管、管理されている。劣化ウランの有効利用法として、ウランに特徴的な化学的性質を利用した電力貯蔵用のウラン・レドックスフロー電池が提案された。 本研究では、ウラン・レドックスフロー電池における放電状態の正極活物質に相当するウラニル(V)UO2+の化合物について、その安定性と構造の関連性を明らかにすることにより、電池正極活物質となる錯体を創製するために必要な知見を得ることを目的としている。本年度では、新たな配位子としてβ-ジケトンの一種である3, 5-ヘプタンジオンを選択し、ウラニル(VI)錯体を調製した。この錯体の結晶構造を単結晶構造解析により決定した。次に、ジメチルスルホキシド中での電極反応の検討をサイクリックボルタンメトリーにより行った。他のβ-ジケトン錯体と同様に、ウラニル(VI)/ウラニル(V)の酸化還元対が-1.5V近傍にて観察された。また配位子の添加により、配位子の解離・会合に伴う酸化還元波が観察された。サイクリックボルタンメトリーにて得られた結果を基に、定電流電解還元によるウラニル(V)溶液の調製を試みた。作用極電位-1.5〜-2Vにてウラニル(V)への還元が観察された。可視・紫外吸収スペクトルは還元過程にて大きく変化し、ウラニル(V)b-ジケトン錯体に特徴的な吸収帯を観測した。経時安定性の評価を前年度の検討と比較により評価した。本研究で行った手法は、今後負極活物質に対しても活用可能であり、電池活物質の選択のための重要な指標となりうる。
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